[いろよく]

なみだをながしてくださいませんか

ゆるやかに蕩けはじめた僕のために

ひとしずく　で構いません

僕のくずれた輪郭の上に

ポタリと垂らしてくださいませんか

ながれだすまえに

まざりあいましょう

[deep]

僕のおくふかくでグラスをこわす

このままどこにもいかずに

ひっそりとしていられたら

だれも傷つけずに

なにも侵さずに

しずけさの

おくふかくで

息をひそめてひとりぼっちで

いくつもいくつもいくつも

ひたすらにひたむきにこわし続けたら

歌に耳をふさいで

花に目をそむけて

うずくまる

こどものように

僕のおくふかくでグラスをこわして

かけらで僕をふさぎました

この部屋が底なしの沼ならば

どんなにか

たすかるものも増えるでしょう

[シルエット]

うまく切り抜ける自信なんかなかった

息を詰めてはしった

知らない輪郭をした

ごわごわした影から

逃げていたんだ

こわごわ触れたドアの把手

その、うえに、僕のしらない

ごわごわ膨れた影

おちる、追いつく、ひらかないドア

腰の下のポンコツ二本

駆り立てて張っ飛ばしてはしった

体当たりでドアを割って

息を詰めるほど距離も

ごわごわ膨れた影は

僕のしらない輪郭

おちる、追いつく、ひらかないドア

でもほら握りこぶしの

かたちが僕のとそっくりじゃないか

僕を追いかけてくる影は

ごわごわ知らない輪郭で

うまく切り抜ける自信なんかなかったんだ

[辞書]

ぱり

と開いた

インクの匂い

吸い込んで

それぎり

僕

インクの匂い

逃がすのが嫌で

本棚の片隅に

閉じこめたままなんだ

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さしあげます

猫の嬌声

歪つな歌声

桜の切り株

鵺の夜啼き

電線の雨垂れ

似合わない笑顔

お譲り下さい

暖かな胸

雲雀の囀り

青空の切れ端

ひなたのにおい

珈琲喫茶の看板の灯り

いずれも

薄謝　致します